Department of Surgery
外科
外科について
外科では、消化器外科(食道、胃、大腸、肝臓、胆嚢、膵臓の各領域の良性、悪性疾患)、一般外科(鼡径ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニアなど)の外科手術全般を担当しています。急性虫垂炎、急性胆嚢炎、消化管穿孔などの救急疾患にも対応可能です。
当科では現在8名の常勤スタッフで日々の診療にあたっており、食道、胃疾患を取り扱う食道・胃外科、大腸疾患を取り扱う大腸外科、肝胆膵疾患消化器を取り扱う肝臓外科、およびヘルニア等、良性一般疾患を取り扱う外科と、細分化を図り、より専門性の高い医療を提供しています。それぞれの領域とも、大学やがん専門病院などで修練を積んだ専門医が中心となって、常に高い水準の治療を実施します。
治療について
当科では、院内の各専門診療科および地域のクリニックの先生方と連携し、初診時から手術、術後経過観察、再発時の治療や緩和ケアまで、高度な治療を安全かつすみやかに、お住まいの地域で切れ目なく受けていただけることができる体制を整えています。
腹腔鏡手術は、傷が小さく患者さんに負担が少ないことや、拡大視効果によってより安全なため、積極的に導入しています。鼡径ヘルニア、胆嚢摘出術などの良性疾患、食道、胃、大腸、肝臓などの悪性疾患、消化管穿孔などの緊急手術も対象です。さらに、大腸がんには最新のロボット支援下手術を導入し、胃がんにも適用の準備を進めています。 また、高度に進行したがんに対する難度の高い手術(他臓器合併切除や血管合併切除再建など)も抗がん剤や放射線療法と組み合わせながら積極的に実施します。
医師紹介
外科部長/肝胆膵外科部長
杉田 光隆(すぎた みつたか)
専門分野
- 消化器外科
- 肝胆膵外科
- 消化器内視鏡
経歴
- 出身大学:信州大学
- 医師免許取得年:1993年
- 専門医・認定医・指導医(資格):
- 日本専門医機構認定外科認定医・専門医・指導医
- 日本肝胆膵外科学会評議員・高度技能指導医
- 日本消化器外科学会消化器外科認定医・専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修修了
- 横浜市立大学医学部消化器・腫瘍外科客員准教授
外科副部長
中嶌 雅之(なかしま まさゆき)
専門分野
- 下部消化管外科
経歴
- 出身大学:熊本大学
- 医師免許取得年:2002年
- 専門医・認定医・指導医(資格):
- 日本専門医機構認定外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会消化器外科専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器病学会消化器病専門医・指導医
- 社会医学系専門医協会社会医学系専門医
- がん治療認定医機構がん治療認定医
- NPO日本乳がん検診精度管理中央機構検診マンモグラフィ読影認定医
- 日本内視鏡外科学会消化器・一般外科技術認定
- がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修修了
食道・胃外科副部長
佐藤 圭(さとう けい)
専門分野
- 消化器外科
- 食道・胃外科
経歴
- 出身大学:山梨大学
- 医師免許取得年:2006年
- 専門医・認定医・指導医(資格):
- 日本専門医機構認定外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器外科学会消化器外科専門医・指導医
- 日本食道学会食道科認定医
- 日本内視鏡外科学会技術認定医(胃)
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- TNT研修終了者
- がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修修了
大腸外科副部長
田 鍾寛(でん かねちか)
専門分野
- 消化器外科
- 大腸外科
経歴
- 出身大学:神戸大学
- 医師免許取得年:2009年
- 専門医・認定医・指導医(資格):
- 日本専門医機構認定外科専門医
- 日本消化器外科学会消化器外科専門医
- 日本内視鏡外科学会技術認定医(大腸)
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
- がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修修了
医長
矢澤 慶一(やざわ けいいち)
専門分野
- 外科
- 消化器外科
- 肝胆膵臓外科
経歴
- 出身大学:群馬大学
- 医師免許取得年:2008年
- 専門医・認定医・指導医(資格):
- 日本専門医機構認定外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器病学会消化器病専門医
- 日本肝胆膵外科学会肝胆膵外科高度技能専門医
- 日本胆道学会認定医・指導医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修修了
医師
山田 淳貴(やまだ じゅんき)
専門分野
- 外科一般
経歴
- 出身大学:横浜市立大学
- 医師免許取得年:2012年
- 専門医・認定医・指導医(資格):
- 日本専門医機構認定外科専門医
- がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修修了
医師
富田 世恋(とみた せれん)
医師
清水 美菜子(しみず みなこ)
外来担当医表・休診表
診療科 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 備考 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
外科 | 午前 | 新患予約外・再診 | 田 鍾寛(大腸) 山田 淳貴 |
田 鍾寛(大腸) 清水 美菜子 |
佐藤 圭(胃・食道) 富田 世恋 |
杉田 光隆(肝胆膵) 矢澤 慶一 |
杉田 光隆(肝胆膵) 矢澤 慶一 |
– |
再診(予約) | 中嶌 雅之(大腸) | 中嶌 雅之(大腸) | 山田 淳貴(胃・食道) | 佐藤 圭(胃・食道) | – | – | ||
特殊外来 | – | ストーマ外来 | – | – | *ストーマ外来 | *第1・3週 | ||
午後 | 再診(予約) | – | 田 鍾寛(大腸) 中嶌 雅之(大腸) |
佐藤 圭(胃・食道) 山田 淳貴(胃・食道) |
杉田 光隆(肝胆膵) | – | – | |
特殊外来 | – | ストーマ外来 | – | – | – | – |
診療科
外科
午前
月
新患予約外・再診
田 鍾寛(大腸)
山田 淳貴
再診(予約)
中嶌 雅之(大腸)
特殊外来
–
火
新患予約外・再診
田 鍾寛(大腸)
清水 美菜子
再診(予約)
中嶌 雅之(大腸)
特殊外来
ストーマ外来
水
新患予約外・再診
佐藤 圭(胃・食道)
富田 世恋
再診(予約)
山田 淳貴(胃・食道)
特殊外来
–
木
新患予約外・再診
杉田 光隆(肝胆膵)
矢澤 慶一
再診(予約)
佐藤 圭(胃・食道)
特殊外来
–
金
新患予約外・再診
杉田 光隆(肝胆膵)
矢澤 慶一
再診(予約)
–
特殊外来
*ストーマ外来
備考
新患予約外・再診
–
再診(予約)
–
特殊外来
*第1・3週
午後
月
再診(予約)
–
特殊外来
–
火
再診(予約)
田 鍾寛(大腸)
中嶌 雅之(大腸)
特殊外来
ストーマ外来
水
再診(予約)
佐藤 圭(胃・食道)
山田 淳貴(胃・食道)
特殊外来
–
木
再診(予約)
杉田 光隆(肝胆膵)
特殊外来
–
金
再診(予約)
–
特殊外来
–
備考
再診(予約)
–
特殊外来
–
外科
12月6日(金)杉田休診➝矢澤代診
診療実績
当科では、予定、緊急手術を併せて年間約750例前後の手術を行っています。このうち緊急手術は170例前後、約20%を占めています。
2023年度の主な手術件数は、胃癌25例、大腸癌101例、肝切除25例、膵切除12例、胆嚢摘出術201例、鼡径ヘルニア根治術117例、急性虫垂炎91例でした。
病気を知る
大腸がん
大腸癌は盲腸からS状結腸までの結腸癌と、それよりも肛門に近い直腸癌の2つに分かれています。大腸癌は日本国内でも増加しており、2022年の部位別の癌による死亡数では男性では肺癌に次ぐ第2位、女性では第1位で、全体では肺癌に次いで第2位となっています。進行大腸癌に対する治療には、手術療法以外に化学療法(抗癌剤治療)、放射線治療などがありますが、遠隔転移がない根治切除可能な大腸癌に対しては、手術が第一選択です。ただし、遠隔転移がある場合にも状態によっては根治を目指せることもあり、化学療法や放射線を組み合わせながらの集学的治療が有効になる場合もあります。手術の方法には開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援下手術といった方法があり、当院では症例に応じて適切な手術術式を選択しています。2020年以降は、大腸癌手術全体の9割以上が腹腔鏡手術またはロボット支援下手術で行われています。
胆石症
肝臓で作られた胆汁の流れ道である胆嚢および胆管にできた結石の総称です。
胆嚢結石症に対しては、胆嚢結石に伴う何らかの症状がある方が治療の適応となります。有症状の方が急性胆嚢炎を発症する率は20~30%と言われ、治療を行うことが推奨されています。無症状の方に急性胆嚢炎が発症する率は1%前後とされ、多くは積極的な治療の対象にはなりません。 ただし無症状の方でも、①胆嚢の壁が厚くなっている、②胆嚢が萎縮している、③胆嚢内の大きな結石や多数の結石のため腹部超音波検査で胆嚢の壁を正確に評価することができない、などの所見が認められる場合は治療の対象です。
治療は手術が第一選択となります。中でも5mm~1cmの小さな穴をお腹に開けて手術を行う腹腔鏡下手術が第一選択です。お腹の傷が小さく、手術後の回復も早く、早期に退院・社会復帰が可能です。4か所の穴を開けて行う手術を主に行っていますが、胆嚢の炎症が軽度~認められない方、整容性を重視される方に対しては、へそに1か所のみの穴を開けて手術を行う単孔式手術も行っています。当院では術後3~4日で退院としています。
ただし、胆嚢の炎症のため周辺の臓器(肝臓や腸管など)と癒着している場合や、胃の手術を受けたことのある方では、開腹胆嚢摘出術を行わざるを得ないことがあります。炎症が高度で、胆嚢が壊死、穿孔を起こして周囲に膿がたまった状態になった場合もやはり開腹手術となります。
総胆管結石症に対しては、内視鏡的治療を第一選択とし、内視鏡的治療が不成功に終わった症例、胃切除後で内視鏡的治療が不可能な症例、および総胆管結石をくりかえし発症する症例に対して、手術的に総胆管切開、結石摘出、あるいは胆管空腸吻合術を行っています。総胆管結石の多くが、胆嚢結石が総胆管に落下してできる二次性結石であり、この場合、内視鏡的治療で総胆管結石を摘出したあと、胆嚢摘出術を施行します。
肝臓がん
I.肝臓がんとは
肝臓がんは大きく、肝臓原発である原発性肝がんと他部位が原発(大腸など)で肝臓への転移を来たした転移性肝がんに分けられます。
①原発性肝がん
原発性肝がんのうち、肝細胞から発生する肝細胞がんと胆管上皮細胞から発生する胆管細胞がんの二つで約95%を占めています。成人では原発性肝がんの約90%が肝細胞がんで、肝細胞がんの疫学的には50~60歳代の男性に多く発生。肝細胞がんによる死亡者数は、我が国では肝細胞がんが発生する原因の多くがB、C型肝炎ウイルスの感染によるものと考えられていますが、近年、ウイルス性肝炎の減少に伴い、アルコール性や非アルコール性脂肪肝(糖尿病、肥満を背景とした)などの非ウイルス性肝障害からの発生例が増加しています。2015年の統計では、B型肝炎ウイルスが15%、C型肝炎ウイルスが50%、非ウィルス性が35%でした。肝細胞がんに特有な症状はなく、したがって肝炎ウイルスに感染している方(肝細胞がん発生の高危険群とされています)は、定期的な血液検査や超音波検査などの画像診断検査を受けることが必要です。
肝細胞がんの手術を行うにあたっては、がんをしっかりと切除すること、切除後の残りの肝臓の機能を十分維持させること、この両者のバランスを考えながら手術方法を選択する必要があります。
肝細胞がんの治療
肝細胞がんの治療法には、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)の3大治療、および放射線療法、分子標的治療薬等の薬物療法があります。さらに肝機能が不良(Child Pugh C)で、国際基準を満たしている場合は肝移植が適応となります。肝がん診療ガイドラインによると、肝細胞がんに対する肝切除の適応は、肝臓に腫瘍が限局しており、腫瘍個数が3個以下である場合で、肝機能が手術に耐えられる程度に保たれている場合です。
肝切除以外の、RFA、TACE、薬物療法は消化器内科で、放射線療法は放射線治療科で実施しています。それぞれの患者さんに応じた、最適な治療を、各科と協働しながら決定し、実施しています。
②転移性肝がん
転移性肝がんの原発部位は多数ありますが、そのうち外科的切除の適応となるのは、大腸がんがほとんどを占めています。その他の原発がんでも、肝切除の適応となる症例があり、転移性肝がん診療ガイドラインの外科切除適応のアルゴリズムに従い、切除適応を決定しています。近年、抗がん剤の進歩に伴い、切除可能な転移性肝がんが増加しています。当科では大きな転移、複数の転移のある方に対しても、大腸外科と連携して積極的に抗がん剤治療を行い腫瘍の縮小をはかった後、肝切除を行うことで、予後の改善、根治を目指しています。さらに、術後も、再発予防のために化学療法を行っています。
II.肝切除術について
手術方法の決定には、病変の部位や広がり(大きさ、個数など)を診断することのほかに、前述の、個々の患者さんが持っている肝予備能(肝障害度)を正確に評価することがとても重要になります。肝切除はがんを完治できる効果が一番確実であることが最大の利点ですが、逆に身体にかかる負担が大きく、特に肝臓の予備能が低下している場合には、手術後の合併症により死亡する危険性があることが大きな欠点です。
そのため、がんをしっかり切除するには何%の肝切除が必要か、それに対して残りの肝臓の機能を十分に維持できるには何%までの肝切除が可能か、これらを正確に評価し、まず肝切除が可能かどうか、次いでどんな手術方法が一番良いのかを決定します。
1.肝予備能の評価
肝予備能が十分であれば肝臓や体への影響の大きな治療(例:大きな肝切除)が可能ですが、肝予備能が不十分な場合には治療選択肢は限定されてきます。主に用いられる評価方法はChild-Pughスコアと肝障害度分類(Liver Damage)です。
2.腫瘍の局在
肝臓は大きく左葉と右葉に分けられ、右葉はさらに前区域と後区域、左葉はさらに外側区域と内側区域に分けられ、便宜上さらに合計8つの亜区域に分けられます。
肝切除はがんの部分を含めて肝臓の一部を切除する方法です。
切除範囲によって、
①肝部分切除
②肝亜区域切除
③肝区域切除
④肝葉切除
⑤拡大肝葉切除
に分けられます。肝細胞がんは肝臓を栄養する血管の一つである門脈(=胃や腸の静脈血を肝臓へ運ぶ太い静脈)に沿って肝内に転移をすることが知られているため、腫瘍の存在する領域を栄養する門脈を根部で切離して、その栄養領域を一括で切除する系統的切除(②~⑤)がより早期の再発予防のために有用であることが知られていますが、上述のとおり、肝予備能とのバランスにより、系統的切除が行えないことも多いです。
当科では、術式決定に際し、3次元CTを積極的に活用し、腫瘍と血管の位置関係を確認し、さらに各門脈枝が栄養する肝臓の容積をコンピューターで算出して、安全で、かつ根治性の高い治療を選択しています。
3.実際の手術の方法について
肝臓は大部分が肋骨に隠れた位置に存在し、横隔膜に癒着して固定されているため、まずこの固定を剥離して肝臓がある程度自由に動く状態にしてから肝切除を行います(授動)。
肝臓は血管、胆管の塊のような臓器であるため、まず肝実質を崩して露出した血管や胆管を、丹念に糸で結紮したり電気メスや超音波凝固装置を使いながら焼灼して切離していきます。この操作を繰り返して肝臓を切離してがんを切除。手術中に出血量を減少させるために、肝下面より肝内に入る門脈、肝動脈、胆管の束をゴムで一時的に遮断する処置を行いますが、その際、肝左右境界下面に付着する胆嚢を残した状態では、この血管遮断操作が不十分となることがあり、その場合、胆嚢も同時に摘出します。
手術侵襲を減らすために、症例によっては、腹腔鏡下に肝切除を行うことが可能です。
腹腔鏡手術とは、腹部にあけた穴からカメラや器具を挿入して、モニターを見ながら行う手術です。開腹手術と比較すると、傷が小さく体への負担が少ないことが知られています。すべての患者さんに腹腔鏡下肝切除の適応があるわけではありませんが、がんの部位や術式などから可能な場合には積極的に実施しています。
食道がん
ⅰ.食道がんとは
口から胃につながる細長い筒状の臓器に発生するがんを食道がんといいます。
ⅱ.診断
進行度の診断は、消化管の粘膜から発生したがんがどの深さまで及んでいるか(T因子)、リンパ節転移はあるのか、どの程度転移しているのか(N因子)、がんが発生した臓器から離れた臓器に転移しているのかどうか(M因子)という3つの要素を組み合わせて行います。
ⅲ.治療方法
- がんの治療は進行度により治療方法が異なります。そのため、まずは進行度の診断を行い、その後適切な治療を選択していくこととなります。食道がんの場合は、手術治療の他、内視鏡的切除(ESD治療)、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法などを組み合わせた治療が行われます。進行度別に推奨される主な治療方法は以下の通りとなっています。
- 食道は周囲を心臓・大動脈・肺・気管などの重要臓器に取り囲まれており、これらを温存するように手術を行わなければいけないため、難易度が高い手術です。胸部、腹部、頸部の3か所から、食道および胃の一部と周囲のリンパ節を切除します。その後、細長く形成した胃を頸部まで挙上し、食道の口側断端を吻合します(図1)。
- 従来は胸部や腹部に大きな切開を行うため、患者さんにも負担の大きな手術が行われていましたが、近年胸腔鏡や腹腔鏡を用いた低侵襲手術が広く行われるようになってきています。当院でも、2020年より胸腔鏡・腹腔鏡を用いた手術を導入しております。術後の経過が良好であれば、術後2週間程度で退院可能となります。
- 食道がんに対する、手術以外の治療に関しては、消化器内科や放射線科などの他の診療科と連携をとって治療にあたります。根治切除不能な食道がんに対しては、根治的化学放射線療法を行います。これは、放射線照射と化学療法を同時に行っていく治療です。放射線照射は放射線科医が、化学療法は外科が行います。一部の方は、食道がんがすべて消失し根治に至ることがあるため、手術治療ができないとしても治療をあきらめることなく、積極的に治療を行います。
- 根治切除不能食道がんによる狭窄で口からの摂取が困難な方に対する食道ステント留置や胃瘻造設などの症状緩和目的治療を行うこともあります。これらの治療は、消化器内科医が担当します。
胃がん
ⅰ.胃がんとは
胃に発生するがんです。その多くは、ヘリコバクターピロリ菌感染に基づくものであり、近年ヘリコバクターピロリ菌の罹患率低下に伴い、胃がん患者さんは減少傾向にあるといわれています。そのため、胃がんに対する手術治療は、胃がん治療の専門医がいる病院でうけることが望ましいです。当院は、日本胃癌学会認定施設の一つです。(認定施設B024-241)
ⅱ.治療方法
- 基本的には、胃もしくは胃の周囲のリンパ節(領域リンパ節といいます)にがんがとどまっていると判断された場合は、内視鏡的切除もしくは手術治療によって胃がんを切除します。その後、切除したがんを病理学的に調べ、病理学的進行度診断に基づき、追加で化学療法(抗がん剤治療)を行うかどうかを判断します。この術後に再発率を低下させるために行う抗がん剤治療を術後補助化学療法といいます。一方、領域外リンパ節(胃からはなれたリンパ節)や他臓器へ転移している場合には、基本的に手術は行わずに化学療法による治療が選択されます。
- 進行度別に推奨される治療は以下の通りです。なお、内視鏡的切除の適応となるのは、Stage I胃癌のうちのごく一部であり、内視鏡的切除をしたあとの病理診断結果によっては、追加で手術治療が行われることがあります。
- 胃がんに対する手術術式は、がんの発生部位、大きさなどにより決定されます。 主な切除方法は、胃の出口側を切除する幽門側胃切除(図2)、胃の入り口側を切除する噴門側胃切除(図3)、胃をすべて切除する胃全摘(図4)の3つです。胃を切除すると、食事の摂取機能が低下します。そのため、癌の根治性とのバランスを保ちつつ、可能な限り胃の一部を温存する術式を選択するようにしています。
- 胃がんに対する手術においても、腹腔鏡手術やロボット支援下手術などの低侵襲手術が普及してきています。しかし、腹腔鏡下胃切除術の適応を早期胃がんや幽門側胃切除術に限局している施設も多く存在します。
- 近年、日本において進行胃がんに対する腹腔鏡下幽門側胃切除術の長期成績が開腹手術に劣らないという試験結果が公表されました(JLSSG0901試験)。この試験結果を踏まえ、当院では進行胃がんに対しても腹腔鏡下胃切除術を積極的に行っています。その際には、根治性と安全性を担保するために、日本内視鏡外科学会技術認定医が執刀医もしくは指導的助手として必ず手術に参加しています。
- 胃がんと診断された時点で他臓器転移があるStage IVBの方や、胃切除後に胃がんが再発してしまった方は、手術治療による根治は困難であり、化学療法が治療の基本となります。治療効果を予測する因子等の検査を用いて、適切な薬剤を組み合わせて治療を行います。
消化管間質腫瘍(主にGIST)
ⅰ.消化管間質腫瘍(主にGIST)とは
胃や腸の粘膜下に発生する腫瘍であり、「がん」とは異なります。しかし、消化管間質腫瘍のうちの一部、特にGIST(ジスト)と呼ばれる腫瘍は、進行するとがんと同じように生命にかかわります。
ⅱ.治療方法
- GISTと診断された場合、切除可能であれば、手術治療が基本です。GISTは消化管の様々な部位に発生しますが、特に胃に発生することが多く、食道・胃外科で手術することが多いです。
- GISTが発生した消化管の壁のごく一部のみ切除し、なるべく臓器を温存することで、術後に機能障害が発生することを防ぎます。胃に発生したGISTのうち、胃の内腔側に突出するような形態のもの(管内発育型GIST)は、手術の際に胃の表面から見ても腫瘍の範囲がはっきりとわからないことがあります。そのような場合、消化器内科医に内視鏡で胃の内腔から腫瘍の位置を確認してもらいながら最小限の範囲で胃壁を切除します。その後、外科医が欠損した胃壁の閉鎖を行います。このような手術は、LECS(レックス:腹腔鏡内視鏡合同手術)と呼ばれています(図6)。当院では、胃に発生した管内発育型GISTの多くに対し、このLECS治療を行っています。術後は1週間前後で退院可能となります。
図6
(左:管内発育型胃GIST、右:LECS手術術中画像)
食道裂孔ヘルニア
ⅰ.食道裂孔ヘルニアとは
- 食道と胃の境界部は食道胃接合部と呼ばれ、食道裂孔という横隔膜の孔を通過します。食道胃接合部の食道裂孔への固定は加齢や肥満などにより弱くなり、胃や近傍の腹腔内臓器が食道側(縦隔内)へと脱出することがあります。この状態を食道裂孔ヘルニアと呼び、治療が必要となることがあります。
- 食道裂孔ヘルニアによる問題は主に2つあります。1つは胃食道逆流症です。食道裂孔ヘルニアにより、胃の内容物が食道に逆流することを防止する機能が低下してしまいます。胃酸が食道に逆流することで胸やけなどの症状が起きます。プロトンポンプ阻害薬(PPI)と呼ばれる薬物により、多くの場合で症状を改善させることが可能ですが、PPIを使用しても症状が改善しない場合は、手術治療が検討されます。
2点目は、食道側に脱出する臓器によって引き起こされる症状です。巨大な食道裂孔ヘルニアがあると、心臓や肺が圧迫され、動悸や息切れがおこることがあります。また、胃が捻じれることによる食事の通過障害も起こることがあります。このような症状がある場合には、薬物治療が無効なため手術が必要となります。
ⅱ.治療方法
食道裂孔ヘルニアに対する手術は、①脱出した臓器を腹腔内に戻す、②食道裂孔を縫縮する、③逆流防止のための処置を行う、という3つの内容を行います。近年、食道裂孔ヘルニアに対する手術も、腹腔鏡による低侵襲手術が行われるようになってきました。当院でも、腹腔鏡手術により身体に負担が少ない形で治療を行っています。
鼠径ヘルニア
ⅰ.そけいヘルニア 当院の特徴
- 全ての術式に対応可能
腹腔鏡下、鼠径部切開法、メッシュを使用しない従来法と、患者さんの状態に応じて最適の術式を選択し、提供しています。 - 再発のような困難症例にも対応
以前に他院で治療を受けて再発された方の手術などもご紹介頂いています。 - 他のご病気を持っている方でも安心
総合病院の強みを生かし、病院内で協力体制をとっています。例えば透析患者さん、精神疾患をお持ちの患者さん、心臓の持病をお持ちで抗凝固薬(血液がさらさらになる薬)を内服している患者さんなども治療ができます。 - 比較的早い、手術までの待ち時間
他の総合病院では、待ち時間が数か月単位になることもありますが、当院では、患者さんと相談して、なるべく早めに手術を行っております。最近の状況では、半数程度の方は希望に沿って初診から1か月以内に手術をしております。 - 確かな技術と経験 ほぼすべての手術に、経験豊富な外科学会指導医レベルの医師が責任者として携わっています。
- 仕事などはどれくらいで再開できますか?
座ってできる仕事や、力を必要としない仕事でしたら、退院日から再開することも可能です。力を使う仕事については、術後の痛みの状態にもよりますが、術後1か月程度を目安にしていただくと安心です。 - 手術後はどれくらい痛いですか?
腹腔鏡下の手術であっても、ある程度の痛みはありますが、立ったり歩いたりはできる程度です。多くの方は、手術後1週間程度で痛み止めが必要ない程度の痛みに落ち着きます。2-3か月で、まったく気にならない程度になることが多いです。 - 紹介なしでも受診できますか?
外科は、基本的には直接受診することが可能です。ただし、初診時選定療養費(7,700円)がかかるので、若干費用が高くなります。
(他科は、受診いただけないこともあります)
ⅱ.鼠径ヘルニアとは
加齢、持病(糖尿病、コラーゲン代謝異常等)、低栄養、手術(主に前立腺)などが原因で、足の付け根の筋肉や膜が緩んだために“穴”ができてしまう病気です。(図1) (小児の場合は先天的に穴が開いていることがほとんどです) 小腸などが“穴”から飛び出すことにより、足の付け根(鼠径部:そけいぶ)が膨れてしまいます。これは一般的に“脱腸:だっちょう”と言われるものです。 男性が8割以上を占めており、性別によって差があります。 日本では、鼠径ヘルニアの手術は年間15万件以上行われていると言われており、外科の領域では一番件数の多い手術です。
ⅲ.症状
一番は足の付け根が膨らむことです。膨らむ大きさは人によって異なり、あまり気にならない大きさから、10㎝以上膨らむ場合までさまざまです。 また、寝ている時は平らで、立ったり座ったりすると膨らんでくることも特徴の一つです。 膨らんで戻らなくなった時は、“嵌頓:かんとん”といって緊急手術が必要になることがあります。(図2) 痛みや、違和感が出現することもあります。その際は早めの手術が必要です。 一方「足の付け根に膨らみはないが痛みはある」という場合は、原因が鼠径ヘルニア以外のこともあります。この場合は、画像検査などの結果と合わせて診断します。
ⅳ.診断
診察(視診と触診)で診断できることがほとんどです。これが一番確実な診断だと言われています。
当院では、多くの場合単純CT撮影を行ってヘルニアの状態(ヘルニアの大きさ、膨らみの中に入っている腸などの状態、反対側のヘルニアの有無)の確認とその他の病気の検索を行います。
診察時に診断できない際(膨らみがない時)でも、CTで診断ができることがあります。
ⅴ.治療方法
診断が確実についたら、まずは手術をお勧めします。
リハビリやトレーニング、装具で根治することはできません。時間と共に膨らみは大きくなっていきます。
症状が膨らみ以外にない方は経過観察もできますが、これまでの研究では、症状がなく手術を希望されない場合でも7割程度の方は、最終的に手術を行うことになったと報告されています。そのほとんどの原因は痛みや違和感の出現、ヘルニアの大きさの変化です。
手術には、鼠径部切開法という膨らみの部分を切開して治療する方法と、腹腔鏡下という腹部の3か所程度の小さな傷から手術する方法があります。
最近の研究では、腹腔鏡手術の方が、痛みが少なく、日常生活への回復が早く、対側を直接確認でき手術を同時に行うことができる、などのメリットが多いため、適応がある方には腹腔鏡手術をお勧めしています。当院でも、最近は70%以上の方が、腹腔鏡下で治療を受けられています。
一方、過去にお腹の手術をしている方(特に前立腺)、女性で鼠径部の水腫が疑わえれる方、ヘルニアの中に腸などがくっついてしまっている方などは、鼠径部切開法をお勧めします。
治療法については受診時に詳しく説明を致します。
術前日入院、術後2日で退院の3泊4日が基本ですが、入院日数の調整は可能です。日帰り手術にも対応できる体制をとっておりますので、外来で担当医にご相談下さい。
※以下の動画で、治療、費用についてより詳しく説明しておりますのでご参照ください。
治療について(腹腔鏡下手術)
https://www.youtube.com/watch?v=pbuKWI4cYuc
治療について(鼠径部切開法)
https://www.youtube.com/watch?v=zCFQKXywKn8
費用について
https://www.youtube.com/watch?v=ARNPhxHrbtM
ⅵ.よくあるご質問
腹壁ヘルニア
ⅰ.腹壁ヘルニアとは
手術はしていないのに、自然にお腹の一部分が膨れてくる病気です。お腹の筋肉の一部分に穴が開いたり、筋肉が緩んでしまうことが病気の発生する原因です。(図1) 有名なものでは“でべそ”があります。これは正式には臍ヘルニアといい、腹壁ヘルニアの一つです。 その他には、白線ヘルニアという、お腹の真ん中が膨れる病気もあります。これは妊娠、肥満、腹水貯留などにより、お腹に強い圧力がかかることが原因で発生します。
ⅱ.診断
ほとんどの場合、診察だけですぐに診断できます。さらに、ヘルニアの状態をより詳しく調べるために、多くの場合お腹のCT検査を行います。これによって、飛び出しているものが何か?お腹に他の異常がないか?などがわかります。
ⅲ.治療方法
成人の臍ヘルニアは、自然に治ることはほとんどありません。白線ヘルニアの一部の方は、リハビリや時間の経過で症状が改善することがあります。
薬で治ることはないので、多くの場合、根本的に治療する場合は手術が必要になります。特に、痛みがある方や、お腹が膨らんだまま体を横にしても膨らみが戻らない状態(嵌頓)になってしまった方は、早めの手術や緊急手術が必要です。成人の臍ヘルニアは嵌頓しやすいので、まずは手術をお勧めします。
手術には、腹腔鏡手術か開腹手術か?メッシュ(人工的に作られた補強用の膜)を使用するかしないか?など選択肢が色々ありますので、患者さんの状況に応じて最適の治療法を提案させていただきます。
もともと元気な方は、どの手術を選択しても、合併症がなければ術後1週間以内で退院可能になります。
腹壁瘢痕ヘルニア
ⅰ.腹壁瘢痕ヘルニアとは
お腹の手術をした後に、皮膚の下の縫合した筋肉の一部が。うまく閉鎖されず穴が開いてしまうために起こる病気です。(図1、2)過去の報告では、開腹手術の2~20%程度※に発生すると報告されています。 最近では傷が小さい腹腔鏡下手術が増えているために、以前より少なくなっていますが、 研究によると、0~10%程度の発生があると報告されています※。 (※発生割合に幅があるのは、傷の大きさや部位、持病の有無、手術する原因になった病気の状態、術式によって危険度に大きな差があるためです。)
ⅱ.診断
ほとんどの場合、診察(視診と触診)だけですぐに診断できます。ただし、ヘルニアの状態をより詳しく調べるために、多くの場合お腹のCT検査を行います。これによって、飛び出しているものが何か?お腹に他の異常がないか?などがわかります。
ⅲ.治療方法
自然には治りません。装具やリハビリ、トレーニングなどでも根治することはできません。
根本的に治療する場合は手術が必要になります。
無症状の方や、全身の状態がとても悪い方などは、経過観察することも可能ですが、通常、膨らみは時間と共に大きくなっていきます。
痛みや違和感がある方や、膨らみが気になる場合は手術が必要になります。また、お腹が膨らんだまま体を横にしても膨らみが戻らない状態(嵌頓)になってしまった方は、緊急手術が必要です。その場合は、血液の流れが悪くなった腸を切る事もあります。
手術には、腹腔鏡手術か開腹手術か?メッシュ(人工的に作られた補強用の膜)を使用するかしないか?など選択肢が色々ありますので、患者さんの状況に応じて最適の治療法を提案させていただきます。
当院では、この治療に積極的に取り組んでおり、周辺病院からも患者さんをご紹介いただいております。また、他院で治療が難しいと言われた患者さんに対しても手術を行ってきた経験があります。外来担当医師にご相談ください。
肥満のある方は、手術の難易度が上がり、術後合併症や再発の危険性が上昇することからも、術前にできる限り減量されることをお勧めします。
もともと元気な方は、どの手術を選択しても、合併症がなければ術後1週間以内で退院可能になります。
ロボット支援下手術について
近年世界的に手術用ロボットを用いた大腸癌手術が行われるようになっています。当院では全国的にも早い段階の2018年よりロボット支援下直腸手術を導入しており、患者さんに併せた手術術式選択の幅が広がりました。手術用ロボットを用いることによる3Dカメラを用いた立体感のある視野や、ロボットに備わった多関節機能および手ぶれ防止機構により、更に緻密で安全な手術が期待されます。現在では最新型のda VinciⓇ Xiシステムを導入するとともに、結腸癌に対するロボット支援下結腸手術も導入しております。
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